「筋肉をつけたいなら、3時間おきに食事を取った方がいい」
筋トレをしている方なら、一度はこのような話を聞いたことがあるかもしれません。
一方で、最近では16時間断食やオートファジー、時間制限食なども広く知られるようになり、「筋トレをしている人が16時間断食をしても大丈夫なのか?」と疑問に感じる方も増えています。
結論から言うと、筋肥大を最優先するなら、極端に食事回数を減らす方法はおすすめしにくいです。
ただし、1日6食を無理に続ける必要があるかというと、そこまで強い根拠があるわけでもありません。
この記事では、筋肉の合成に関わるMPSという考え方、食事回数と筋肥大の関係、16時間断食が筋トレ効果に与える影響について、できるだけわかりやすく解説します。
筋肉は常に「合成」と「分解」を繰り返している
まず、食事回数と筋肥大を考えるうえで重要になるのが、MPSとMPBという考え方です。
MPSとは、Muscle Protein Synthesisの略で、日本語では筋タンパク質合成といいます。
簡単に言うと、筋肉を作る方向の働きです。
一方で、MPBとはMuscle Protein Breakdownの略で、筋タンパク質分解を意味します。
こちらは、筋肉を分解する方向の働きです。
筋肉は、何もしていない時間も含めて、常に合成と分解を繰り返しています。
MPSがMPBを上回っている時間が長ければ、筋肉は増えやすい方向に進みます。
反対に、MPBがMPSを上回る状態が続けば、筋肉は減りやすい方向に進みます。
この考え方から、「できるだけMPSを何度も刺激した方が、筋肥大に有利なのではないか」という理論が生まれました。
食事を細かく取った方がいいと言われる理由
筋肉をつけたい人に対して、「1日3食ではなく、5食や6食に分けた方がいい」と言われることがあります。
この考え方の大きな根拠になっているのが、MPSに関する研究です。
タンパク質摂取はMPSを刺激する
MPSを高めるうえで、タンパク質やアミノ酸の摂取は非常に重要です。
トレーニングだけを行った場合、筋肉では合成だけでなく分解も起こります。
しかし、トレーニング後にアミノ酸やタンパク質を摂取すると、筋タンパク質合成が高まりやすくなります。
そのため、筋トレ後のタンパク質摂取が重要だと言われているわけです。
特に、トレーニング後は筋肉が栄養を必要としている状態なので、タンパク質をしっかり取ることは基本になります。
MPSはタンパク質量に応じて高まるが、どこかで頭打ちになる
タンパク質を多く取れば取るほど、筋肉の合成が無限に高まるわけではありません。
2009年の研究では、タンパク質を0g、5g、10g、20g、40gと摂取した場合のMPS反応が調べられています。
その結果、20gまではタンパク質量が増えるほど筋タンパク質合成も高まりましたが、20gと40gでは大きな差が見られませんでした。
つまり、ある程度まではタンパク質量に応じてMPSは高まるものの、一定量を超えると頭打ちになる可能性があるということです。
この考え方から、「1回の食事でタンパク質20gは取りましょう」と言われるようになりました。
また、2015年の研究でも、タンパク質摂取によるMPS刺激は体重1kgあたり約0.24g付近で頭打ちになる可能性が示されています。
体重75kgの人であれば、約18gのタンパク質です。
そのため、一般的には1食あたり20g前後のタンパク質を目安にする考え方は、ある程度理にかなっています。
ただし、体格が大きい人、トレーニング量が多い人、全身トレーニングを行う人では、1回あたりの必要量がもう少し多くなる可能性もあります。
食後しばらくはMPSが再び刺激されにくい時間がある
MPSには、いわゆる不応期のようなものがあると考えられています。
2010年の研究では、48gのタンパク質摂取後の血中アミノ酸濃度とMPSの変化が調べられました。
血中アミノ酸濃度は食後しばらく高い状態を保っていましたが、MPSは90分ほどでベースラインに戻っていました。
つまり、血中にアミノ酸が十分にあっても、MPSがずっと高まり続けるわけではないということです。
このような研究から、「食事後しばらくは追加でタンパク質を取っても、MPSはそれほど刺激されないのではないか」と考えられています。
そのため、3時間ごとに20g前後のタンパク質を取ると、MPSを効率よく刺激できるのではないかという理論が生まれました。
20gを3時間ごとに取るとMPSは高まりやすい
この理論を支持する研究もあります。
2013年の研究では、24人の男性を対象に、合計80gのタンパク質をどのように摂取するかでMPSの反応が比較されました。
グループは以下の3つです。
- 40gを6時間ごとに2回摂取するグループ
- 20gを3時間ごとに4回摂取するグループ
- 10gを1.5時間ごとに8回摂取するグループ
結果として、最もMPSが高まったのは、20gを3時間ごとに4回摂取したグループでした。
40gを2回まとめて取るよりも、10gを細かく8回取るよりも、20gを3時間ごとに取る方がMPSの合計量は高くなりました。
この結果だけを見ると、「やはりタンパク質はこまめに取るべき」と考えたくなります。
しかし、ここで注意しなければいけないのは、MPSが高まることと、実際に筋肉が大きくなることは完全に同じではないという点です。
MPSが高いからといって、必ず筋肥大するわけではない
MPSは筋肉作りを考えるうえで重要な指標ですが、MPSが高いからといって、その分だけ筋肉が大きくなるとは限りません。
なぜなら、筋タンパク質合成には、新しい筋肉を作る働きだけでなく、傷ついた筋肉を修復する働きも含まれるからです。
2016年の研究では、筋トレ後のMPSと筋肥大の関係が調べられています。
興味深いことに、MPSはトレーニング開始初期に大きく高まりましたが、実際の筋肥大は後半で大きくなりました。
もしMPSがそのまま筋肥大を表しているなら、MPSが最も高かった初期に筋肉が最も増えるはずです。
しかし、実際にはそうではありませんでした。
これは、トレーニング開始初期のMPS上昇が、筋肥大というよりも筋損傷の修復に使われていた可能性を示しています。
筋トレを始めたばかりの頃や、新しい種目を行った時は筋肉痛が強く出やすいです。
しかし、同じトレーニングを続けていくと、だんだん筋肉痛は出にくくなります。
これはリピーテッドバウトエフェクトと呼ばれる現象で、身体がトレーニング刺激に慣れていくためです。
つまり、MPSが高い時期は、筋肉を新しく増やしているというより、損傷した筋肉を修復している可能性もあります。
そのため、MPS研究だけを見て「この食べ方が最も筋肥大する」と断定するのは危険です。
実際に筋肉量を測定した研究ではどうなのか
では、MPSではなく、実際の筋肉量や体組成を測定した研究では、食事回数は筋肥大にどれくらい影響するのでしょうか。
食事回数が多いほど筋肉に有利というメタ分析もあるが注意が必要
2015年のメタ分析では、食事回数が体組成に与える影響が調べられました。
この分析では、食事回数が多いほど筋肉量の減少が小さくなる傾向が見られました。
ただし、この結果は特定の研究に大きく影響を受けていた可能性があります。
実際に、その研究を除外すると、食事回数と筋肉量の関係は明確ではなくなりました。
さらに、このメタ分析に含まれていた研究の多くは、筋トレを行っている人を対象にしたものではありません。
つまり、筋トレをしている人が「筋肥大のために食事回数を増やすべきか」を判断するには、やや不十分な内容です。
この研究だけを根拠に、「筋肉を増やしたいなら必ず1日6食」と言い切るのは早いです。
1日3食と1日6食を比べても筋肉量は大きく変わらなかった
2020年の研究では、大学のボートチームに所属する男性を対象に、1日3食と1日6食が比較されました。
どちらのグループも筋トレを行い、摂取カロリーとPFCバランスはおおよそ同じに設定されています。
タンパク質量も体重1kgあたり2.6g以上と、十分すぎるほど摂取していました。
8週間後の結果を見ると、1日3食のグループは筋肉量が約1.2kg増加し、1日6食のグループは約1.3kg増加しました。
差はほとんどありません。
理論上は、1日6食の方がMPSを何度も刺激できて有利に見えます。
しかし、実際の筋肉量を見ると、1日3食でも十分に筋肉は増えていました。
このことから、タンパク質量と総カロリーが十分であれば、1日3食から1日6食に増やしても、筋肥大効果が大きく変わるとは限らないと考えられます。
16時間断食は筋トレに悪影響なのか
ここからは、16時間断食と筋トレの関係について見ていきます。
16時間断食とは、1日のうち16時間は食べず、残りの8時間の中で食事を取る方法です。
例えば、昼12時から夜20時までの間に食事を済ませ、それ以外の時間は食べないような方法です。
MPS理論だけで考えると、16時間も絶食するのは筋肥大にかなり不利に見えます。
では、実際にはどうなのでしょうか。
短期間なら筋肉を大きく落とさず脂肪を落とせる可能性がある
2021年のレビューでは、断食と筋トレを同時に行った場合の体組成への影響が調べられました。
対象となった研究では、おおよそ16時間前後の断食と筋トレを組み合わせたものが多く含まれています。
結果として、断食を行ったグループでは脂肪が減り、筋肉量は大きく落ちにくい傾向が見られました。
これは、断食によって自然と摂取カロリーが減り、その結果として脂肪が減った可能性があります。
また、筋トレを行い、タンパク質を十分に摂取していれば、短期間であれば筋肉はある程度維持できると考えられます。
ただし、注意点もあります。
研究の中には、タンパク質量が不足していたり、食事時間がかなり短かったりするものもありました。
例えば、20時間断食に近いような極端な条件では、筋肉量に不利な影響が出る可能性があります。
そのため、筋トレをしている人が断食を行う場合でも、絶食時間は長くしすぎず、16時間程度までに抑えるのが無難です。
食事回数を減らしすぎると筋肥大に不利になる可能性がある
1日3食と1日6食では大きな差がない可能性があります。
しかし、だからといって食事回数を極端に減らしても問題ないとは言い切れません。
タンパク質摂取の機会が2回になると不利かもしれない
2020年の研究では、タンパク質を3食に均等に配分した場合と、2食に偏らせた場合が比較されました。
摂取カロリーは同程度で、タンパク質量も大きくは変わりません。
しかし、均等にタンパク質を取ったグループでは、毎食20g以上のタンパク質を摂取していたのに対し、偏ったグループでは朝食のタンパク質が7g程度と少なく、夕食に多く偏っていました。
12週間後の結果では、筋肉量は均等にタンパク質を取ったグループの方が有利な傾向を示しました。
この結果から、1日3食と1日6食では大きな差がなくても、タンパク質を取る機会が1日2回程度まで減ると、筋肥大には不利になる可能性があります。
週末だけ大きくカロリーを落とす方法も筋肉には不利な可能性がある
2022年の研究では、5対2ダイエットのような方法が調べられました。
これは、週のうち5日は通常に近い食事を取り、2日は大きくカロリーを制限する方法です。
この研究では、筋トレ未経験者の肥満気味の男女を対象に、通常のカロリー制限と、週末に大きくカロリーを落とす方法が比較されました。
平均すると、どちらのグループも同じくらいのカロリー制限になるように設定されています。
しかし、筋肉の厚さや筋断面積を見ると、断食に近い方法を取り入れたグループの方が不利な傾向が見られました。
このことから、平均のカロリーやタンパク質量が同じでも、食事の取り方が極端になると、筋肉には不利になる可能性があります。
16時間断食を長期間続けると筋肥大が阻害される可能性もある
短期間であれば、16時間断食をしながら筋トレをしても、筋肉量を大きく落とさず脂肪を減らせる可能性があります。
しかし、長期間続けた場合は少し注意が必要です。
2021年には、1年間にわたる16時間断食と筋トレの影響を調べた研究があります。
この研究では、週3回の筋トレを行いながら、通常の食事パターンと16時間断食が比較されました。
通常の食事パターンでは、朝、昼、トレーニング後のプロテイン、夜の食事という流れでした。
16時間断食のグループでは、昼、夕方、トレーニング後のプロテイン、夜の食事という流れでした。
筋トレは完全な絶食状態を避けて行われており、トレーニング後にはプロテインも摂取していました。
タンパク質量も体重1kgあたり約1.9gと十分でした。
しかし、1年後の結果では、16時間断食グループは筋肉量の増加が明らかに不利でした。
通常の食事グループでは筋肉量が増えていたのに対し、断食グループでは筋肉量が増えにくい結果になりました。
腕や脚の筋肉厚でも、通常の食事グループの方が有利でした。
この結果だけを見ると、16時間断食を長期間続けることは、筋肥大を最優先する人には不利になる可能性があります。
不利になった原因は断食そのものか、カロリー不足か
ただし、この研究結果を解釈する時には注意が必要です。
16時間断食グループでは、通常の食事グループよりも摂取カロリーが約200kcal少なくなっていました。
つまり、筋肉が増えにくかった理由が、16時間断食そのものなのか、長期間の軽いカロリー不足なのかは完全には切り分けられません。
過去の研究では、短期間であれば1日あたり200kcal程度のカロリー不足では、筋肥大が大きく阻害されない可能性も示されています。
しかし、それが1年間続いた場合は話が変わるかもしれません。
数ヶ月では問題になりにくい小さなカロリー不足でも、1年単位で続くと筋肥大に影響する可能性があります。
つまり、16時間断食そのものが原因だった可能性もありますが、長期間にわたって摂取カロリーが少なくなったことが原因だった可能性もあります。
どちらにしても、筋肉を最大限増やしたい人にとって、16時間断食を年単位で続けるのは慎重に考えた方がいいでしょう。
筋肥大を狙うなら食事回数はどう考えるべきか
ここまでの内容をまとめると、筋肥大を狙う人にとって重要なのは、次のような考え方です。
- 1日6食にすれば筋肉が大きく増えるとは言い切れない
- 1日3食でも、タンパク質とカロリーが十分なら筋肥大は狙える
- タンパク質摂取の機会が1日2回以下になると不利になる可能性がある
- 16時間断食は短期間なら筋肉を大きく落とさず行える可能性がある
- ただし、長期間の16時間断食は筋肥大に不利になる可能性がある
- 筋肉を最大限増やしたいなら、極端な断食よりも1日3食以上が無難
筋肥大を考えるなら、まずは1日3回以上、タンパク質をしっかり摂取する機会を作ることが現実的です。
毎食20g以上を目安に、体重や活動量に応じて調整すると良いでしょう。
例えば、体重70kg前後の人であれば、1食あたり20〜35g程度のタンパク質を3回以上取る形が現実的です。
無理に1日6食にする必要はありません。
6食にすることでストレスが増えたり、生活リズムが崩れたりするなら、むしろ継続しにくくなります。
筋トレも食事管理も、長く続けられる形にすることが非常に重要です。
16時間断食は絶対にダメなのか
16時間断食が絶対に悪いわけではありません。
食事時間を制限することで、自然と摂取カロリーが減り、脂肪を落としやすくなる人もいます。
特に、ダイエット目的であれば、16時間断食が合う人もいます。
ただし、筋肥大を最優先する場合は別です。
筋肉を増やしたい時期に16時間断食を行うと、食事回数が減り、摂取カロリーやタンパク質量が不足しやすくなります。
短期間なら大きな問題が出にくい可能性はありますが、長期間続けると筋肉の増加を邪魔する可能性があります。
そのため、筋肉を増やしたい人は、16時間断食をメインの戦略にするよりも、1日3食を基本にして、必要に応じて間食やプロテインを入れる方が無難です。
MPS理論を信じすぎると食事管理がストレスになる
MPSに関する研究は、筋肉作りを考えるうえで参考になります。
しかし、MPS研究だけを根拠に、生活を細かく管理しすぎる必要はありません。
例えば、「3時間ごとに必ずタンパク質を取らないと筋肉が減る」「20gでは足りないから毎回40g取るべき」など、極端な考え方になると、食事管理そのものがストレスになります。
たしかに、MPSを見れば、タンパク質の摂取タイミングや量によって反応は変わります。
しかし、それが長期的な筋肥大にどれほど直結するかは、まだ慎重に考える必要があります。
実際に大切なのは、総摂取カロリー、1日のタンパク質量、トレーニング内容、睡眠、継続性です。
食事回数だけを細かく気にしても、総カロリーやトレーニングの質が崩れていれば、筋肉は思うように増えません。
反対に、1日3食でもタンパク質とカロリーが十分で、トレーニングを継続できていれば、筋肥大は十分に狙えます。
筋トレ中の食事回数のおすすめ
筋トレをしている方におすすめしやすい食事回数は、基本的には1日3食以上です。
無理なくできるなら、3食に加えてプロテインや軽い間食を入れる形も良いです。
例えば、以下のような形です。
- 朝食でタンパク質20g以上
- 昼食でタンパク質20g以上
- トレーニング後にプロテイン
- 夕食でタンパク質20g以上
このようにすれば、1日3〜4回はタンパク質を摂取する機会を作れます。
筋肥大を狙ううえでは、かなり現実的で続けやすい方法です。
1日6食が苦にならない人は、それを続けても構いません。
ただし、1日6食にしたからといって、筋肉が劇的に増えるとは考えない方がいいです。
大切なのは、自分の生活の中で無理なく続けられる食事設計にすることです。
まとめ:16時間断食は目的によって使い分けるべき
16時間断食は、ダイエット目的では役立つ場合があります。
しかし、筋肥大を最優先する場合は、慎重に考える必要があります。
現時点での現実的な結論は、次の通りです。
- 筋肥大目的なら、1日3食以上は確保するのが無難
- タンパク質は1食あたり20g以上を目安にする
- 1日6食にこだわる必要はない
- タンパク質摂取の機会が2回以下になる食事法は避けた方がいい
- 16時間断食は短期なら可能でも、長期では筋肥大に不利になる可能性がある
- 筋肉を最大限増やしたい時期は、極端な断食よりも安定した食事回数を優先する
筋トレの成果を出すために、食事タイミングは大切です。
しかし、それ以上に大切なのは、1日の総タンパク質量、総カロリー、トレーニングの質、睡眠、そして継続です。
細かい理論に振り回されすぎず、自分の生活に合った形で、無理なく続けられる食事管理を行いましょう。
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