筋肉を大きくしたいと考えたとき、多くの人が気になるのが「何セットやれば筋肥大に効果的なのか」という点です。
最近では、筋トレはセット数を増やすほど筋肥大しやすいという考え方が注目されています。実際、近年の研究でも、週あたりのセット数と筋肥大には一定の関係があるとされています。
しかし、ここで注意したいのは「セット数を増やせば増やすほど、誰でも同じように効果が出る」という単純な話ではないということです。
筋トレ初心者がいきなり上級者と同じように週20セット、30セット、40セットと行えば、筋肉が成長するどころか、疲労が抜けずにパフォーマンスが落ちる可能性もあります。
つまり、筋肥大におけるセット数は「多ければ正解」ではなく、「今の自分のレベルに合っているか」が重要です。
昔のボディビル界では低セットから高セットへ変化していった
筋トレのセット数に対する考え方は、時代によって大きく変わってきました。
1940年代頃までは、ボディビルダーであっても比較的少ないセット数で全身を鍛える方法が主流でした。全身を週3回ほど鍛えるスタイルで、今の感覚からするとトレーニング量はかなり少なめです。
その後、1950年代から1960年代に活躍したレジ・パークのような選手が、筋肉を十分に発達させるには各部位に対して10〜20セットほど必要だと考えるようになりました。
そして、その影響を受けたアーノルド・シュワルツェネッカーの時代になると、セット数はさらに増えていきます。1970年代のボディビル界では、1つの筋群に対して週60〜70セット近く行うような非常に高ボリュームのトレーニングも行われていました。
このように、ボディビルの現場では「筋肉を大きくするにはある程度のボリュームが必要」という考え方が強まっていったのです。
一方で一般的な筋トレでは1セットでも十分と考えられていた時代がある
ボディビル界では高セット化が進んでいた一方で、一般的なフィットネスの世界では、長い間「1種目1セットでも十分」と考えられていた時期がありました。
1990年代頃のガイドラインでは、週に数回、8〜10種目を各1セット行えば十分とされていたこともあります。
今では「10回3セット」という考え方が一般的ですが、当時は複数セットが1セットより明確に優れているとは考えられていなかったのです。
しかし、その後の研究によって、1セットだけよりも複数セット行った方が筋肥大に有利であることが示されるようになりました。
2010年頃から複数セットの重要性が注目され始めた
2010年頃のメタ分析では、1回のトレーニングで1セットだけ行うよりも、複数セット行う方が筋肥大に効果的であることが示されました。
たとえば、背中を鍛える場合にラットプルダウンを1セットだけで終わるよりも、ラットプルダウンやベントオーバーロウなどを複数セット行う方が筋肥大しやすいという考え方です。
この流れもあり、現在よく見られる「10回3セット」という方法が広まっていったと考えられます。
ただし、この時点で分かっていたのは、あくまで「1セットより複数セットの方が良い」ということです。週あたりのセット数をどこまで増やせばよいのか、また増やし続ければ無制限に効果が高まるのかまでは、まだ明確ではありませんでした。
2017年の研究では週のセット数と筋肥大の関係が示された
その後、2017年のメタ分析では、週あたりのセット数が多いほど筋肥大しやすい傾向が示されました。
具体的には、週5セット未満、週5〜9セット、週10セット以上というように比較した場合、セット数が多いグループほど筋肥大の効果が大きい傾向が見られました。
このあたりから「初心者はまず週10セット前後を目安にするとよい」という考え方が広がっていきます。
ただし、この研究にも注意点があります。対象となった研究の多くは、週10セット未満のものが中心で、さらに被験者も筋トレ初心者が多かったのです。
つまり、週10セット前後までは筋肥大に有効である可能性が高い一方で、それ以上の高セットが初心者にとって本当に必要なのかは、まだ判断が難しい状態でした。
2024年のメタ分析で高セットの研究がさらに注目された
2024年のメタ分析では、週あたりのトレーニングボリュームと筋肥大の関係がさらに詳しく検討されました。
この研究で重要なのは、セット数の数え方です。筋トレのセット数には、大きく分けて3つの考え方があります。
直接セット
直接セットとは、その筋肉をメインで鍛えたセットだけを数える方法です。
たとえば、上腕二頭筋であればバーベルカールやダンベルカールなどが直接セットにあたります。
間接セットを含める数え方
間接セットを含める数え方では、メインではないものの補助的に使われた筋肉もセット数に含めます。
たとえば、ラットプルダウンやチンニングは背中の種目ですが、上腕二頭筋も使われます。そのため、上腕二頭筋のセット数としてもカウントする考え方です。
フラクショナルセット
フラクショナルセットとは、直接鍛えたセットを1セット、補助的に使ったセットを0.5セットとして数える方法です。
たとえば、バーベルカールは上腕二頭筋に対して1セット、チンニングは上腕二頭筋に対して0.5セットのように考えます。
この数え方は、実際のトレーニング感覚に近い部分があります。なぜなら、チンニングとバーベルカールでは、同じ上腕二頭筋を使うとしても負荷のかかり方が違うからです。
セット数を増やすほど筋肥大しやすいが、効果は先細りになる
2024年のメタ分析では、週あたりのセット数が増えるほど筋肥大しやすい傾向が示されました。
ただし、ここで重要なのは、セット数を増やした分だけ一直線に効果が伸びるわけではないということです。
筋肥大の効果は、セット数を増やすほど少しずつ先細りになります。つまり、週5セットから週10セットに増やしたときの効果は大きくても、週30セットから週40セットに増やしたときの追加効果は小さくなる可能性があります。
目安としては、最低限の効果を出すためには週4セット前後、効率が良い範囲は週5〜10セット、そこからさらに伸ばすなら週11〜18セット程度が現実的な範囲と考えられます。
一方で、週20セット以上、30セット以上となると、効果は出る可能性があるものの、効率は下がりやすくなります。また、43セット以上のような非常に高いボリュームについては、まだ十分な研究があるとは言い切れません。
高セットの効果は主に筋トレ経験者から得られたデータである
ここで大切なのは、高セットの研究に含まれている人たちの多くが筋トレ経験者であるという点です。
特に、週20セット以上、30セット以上といった高ボリュームの研究では、ベンチプレスで体重と同じくらいの重量を扱える人や、スクワットで体重の1.5倍程度を扱える人が含まれていることがあります。
つまり、かなりトレーニングに慣れた人たちのデータが多いということです。
そのため、「経験者では週20〜40セットでも多すぎるとは限らない」という解釈はできますが、「初心者も週20〜40セットやるべき」と考えるのは危険です。
筋トレ経験が浅い人にとっては、同じセット数でも疲労の負担が大きくなります。フォームも安定していない状態でセット数だけを増やすと、狙った筋肉に効かせる前に関節や腰、肩などへ負担が出る可能性もあります。
経験者はセット数を増やすことで筋肥大しやすくなる
一方で、筋トレ経験者にとっては、ある程度セット数を増やすことが筋肥大に有利に働く可能性があります。
実際に、トレーニング経験者を対象にした研究では、週16セット、週24セット、週32セットのようにボリュームを分けて比較した結果、セット数が多いグループほど筋肥大しやすい傾向が見られたものもあります。
上腕二頭筋、上腕三頭筋、大腿四頭筋などで、セット数を増やすほど平均的な筋肥大率が高まり、反応が少ない人も減る傾向が示されています。
この点から見ると、経験者がさらに筋肉を大きくしたい場合、今までと同じトレーニング量を続けるだけでは成長が止まりやすくなる可能性があります。
筋肉は同じ刺激に慣れていきます。そのため、扱う重量、回数、セット数、種目、頻度など、どこかで少しずつ負荷を上げていく必要があります。
ただし急に増やしすぎると逆効果になる可能性がある
セット数を増やすことが筋肥大に有利だからといって、急に増やしすぎるのはおすすめできません。
研究の中には、セット数を大きく増やした結果、筋肥大が思ったほど伸びなかったケースもあります。
たとえば、5セットと10セットを比較した研究では、一部の筋肉では10セットの方が有利だったものの、別の筋肉では5セットの方が良い結果になったものがあります。
また、9セット、18セット、27セットを比較した研究では、18セットが最も筋肥大し、27セットでは効果が落ちたという結果もあります。
このことから分かるのは、セット数には個人ごとの適量があるということです。
自分の回復力やトレーニング歴に対してボリュームが多すぎると、筋肉に良い刺激を与える前に疲労が蓄積してしまいます。その結果、重量が伸びない、フォームが崩れる、筋肉痛が抜けない、やる気が落ちるといった状態につながる可能性があります。
セット数は現在より少しずつ増やすのが現実的
筋肥大を狙ううえで現実的なのは、今のトレーニング量から少しずつ増やしていく方法です。
特に筋トレ経験者の場合、現在のセット数から20%程度増やすことで筋肥大しやすくなる可能性があります。
たとえば、ある筋肉を週10セット行っているなら、いきなり週25セットにするのではなく、まずは週12セット程度に増やす。週15セット行っているなら、週18セット程度に増やす。
このように段階的に増やす方が、体の反応を見ながら調整できます。
逆に、急激にセット数を増やすと、疲労が先に来てしまい、筋肥大に必要なトレーニングの質が落ちることがあります。
初心者はまず週10セット前後を目安にする
筋トレ初心者の場合、最初から高セットを行う必要はありません。
まずは、1つの筋肉に対して週10セット前後を目安にするとよいでしょう。
たとえば胸を鍛える場合、週2回に分けてベンチプレスやチェストプレス、ダンベルプレスなどを合計10セット前後行うイメージです。
背中であれば、ラットプルダウン、シーテッドロー、チンニング補助などを組み合わせて週10セット前後。
脚であれば、スクワット、レッグプレス、レッグエクステンション、レッグカールなどを組み合わせて調整します。
最初はセット数を増やすことよりも、正しいフォーム、狙った筋肉への刺激、可動域、呼吸、重量設定を身につけることが優先です。
中級者は停滞したらセット数を少し増やす
ある程度トレーニングに慣れてきて、筋肉の成長が停滞してきた場合は、セット数を少し増やすことを検討してもよいでしょう。
目安としては、週10セットで伸びているなら無理に増やす必要はありません。
しかし、重量も回数も見た目の変化も止まってきた場合は、週12セット、週14セット、週16セットというように段階的に増やしていきます。
このとき大切なのは、セット数を増やした結果、トレーニングの質が落ちていないかを確認することです。
セット数を増やしても、後半のセットでフォームが崩れたり、重量が大きく落ちたり、次回のトレーニングまで疲労が残りすぎたりする場合は、増やしすぎの可能性があります。
上級者ほどセット数が必要になりやすい
筋トレ歴が長くなり、体が大きくなるほど、さらに筋肥大させるためには多くの刺激が必要になりやすくなります。
上級者の場合、週20セット以上が必要になるケースもあります。さらに高いレベルでは、部位によって週30セット以上行う人もいます。
ただし、これはあくまで回復力、トレーニング技術、食事、睡眠、生活リズムが整っていることが前提です。
上級者になると、単純にセット数を増やすだけでは時間が足りなくなるため、スーパーセット、ドロップセット、レストポーズ法などの時短テクニックを使うこともあります。
しかし、これらの方法は疲労も大きくなります。初心者が安易に真似すると、フォームが乱れたり、関節に負担が出たりする可能性があるため注意が必要です。
セット数を考えるときは直接セットと間接セットを分けて考える
セット数を管理するときは、直接その筋肉を鍛えたセットと、補助的に使われたセットを分けて考えると分かりやすくなります。
たとえば上腕二頭筋の場合、バーベルカールやダンベルカールは直接セットです。一方で、ラットプルダウンやローイングでは上腕二頭筋も使われますが、メインは背中です。
この場合、ラットプルダウンを上腕二頭筋の1セットとしてそのまま数えるより、0.5セット程度として考えた方が現実に近い場合があります。
上腕三頭筋も同じです。プレスダウンやフレンチプレスは直接セットですが、ベンチプレスやショルダープレスでも上腕三頭筋は使われます。
このように、直接セットと間接セットを整理すると、知らないうちに腕や肩のボリュームが多くなりすぎていることにも気づきやすくなります。
筋肥大に必要なのはセット数だけではない
筋肥大を考えるうえで、セット数は重要です。しかし、セット数だけを増やしても筋肉が大きくなるわけではありません。
大切なのは、適切な重量、十分な可動域、狙った筋肉への刺激、限界に近い努力度、回復、栄養のすべてが揃っていることです。
たとえば、週20セット行っていても、すべてのセットが軽すぎたり、フォームが雑だったり、対象筋に効いていなかったりすれば、筋肥大の効率は下がります。
反対に、週10セットでも丁寧に追い込めていて、重量や回数が少しずつ伸びているなら、十分に筋肥大は狙えます。
筋トレでは「どれだけやったか」だけでなく、「どれだけ質の高い刺激を入れられたか」が重要です。
実際にはどれくらいのセット数から始めればいいのか
実践的には、以下のように考えると分かりやすいです。
筋トレ初心者は、各筋肉に対して週10セット前後から始める。
中級者は、停滞を感じたタイミングで現在のセット数から10〜20%ほど増やす。
上級者は、回復力や生活リズムを見ながら、部位によって週20セット以上も検討する。
ただし、すべての人が同じセット数で伸びるわけではありません。
同じ週10セットでも十分に筋肉痛が出る人もいれば、物足りない人もいます。同じ週20セットでも回復できる人もいれば、疲労が抜けない人もいます。
そのため、セット数は固定された正解ではなく、自分の反応を見ながら調整していくものです。
セット数を増やすべきサイン
セット数を増やすべきか迷った場合は、まず現在のトレーニングで成長しているかを確認しましょう。
重量が少しずつ伸びている、回数が増えている、見た目が変わっている、対象筋にしっかり刺激が入っている。このような状態であれば、無理にセット数を増やす必要はありません。
一方で、フォームは安定しているのに重量も回数も伸びない、筋肉への刺激が弱く感じる、見た目の変化が止まっている場合は、セット数を少し増やす選択肢があります。
ただし、その前に睡眠、食事、フォーム、重量設定が適切かも確認する必要があります。
セット数を増やしすぎているサイン
反対に、セット数を増やしすぎている場合には、いくつかのサインが出ます。
トレーニング後の疲労が長く残る、次回のトレーニングで重量が落ちる、関節に違和感が出る、筋肉痛が抜けない、集中力が続かない、睡眠の質が落ちる。
このような状態が続く場合は、セット数が多すぎる可能性があります。
筋肉を大きくするには刺激が必要ですが、刺激を受け止めて回復する時間も必要です。回復できない量のトレーニングは、筋肥大にとってプラスではありません。
まとめ:筋肥大はセット数を増やせばよいのではなく、段階的に増やすことが大切
筋肥大において、セット数は非常に重要な要素です。
研究を見ると、基本的にはセット数が多いほど筋肥大しやすい傾向があります。特に、1セットだけで終わるよりも複数セット行う方が効果的ですし、経験者ではより多くのセット数が必要になる場合もあります。
しかし、セット数を増やせば増やすほど無条件に効果が高まるわけではありません。
初心者がいきなり上級者と同じボリュームを行えば、疲労が溜まりすぎて逆効果になる可能性があります。また、セット数を増やすほど追加効果は先細りになり、効率も下がりやすくなります。
大切なのは、今の自分に合ったセット数から始め、成長が停滞したタイミングで少しずつ増やしていくことです。
初心者はまず週10セット前後を目安にする。中級者は停滞したら10〜20%ほど増やす。上級者は回復力を見ながら、必要に応じてさらにボリュームを増やす。
このように、経験値に合わせて段階的にセット数を調整することが、筋肥大を効率よく進めるための現実的な方法です。
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